「僕、諦め悪いので」

13/16
前へ
/97ページ
次へ
『なずなちゃん、1月17日はなずなの花の日なんだって!』 『どういういみ?』 『たんじょうか?っていうのがあって、1月17日はなずななの!』 『だから、ケーキたべるの?』 『ケーキ?』 『うん!1月17はケーキたべる日!』 『じゃあ、たんじょうびなんだよ!なずなちゃん!』 『たんじょうび?』 『そうなずなちゃんが、うまれた日!』 『そーなんだ!』 『それとね、それとね、ねぇ、なずなちゃん。なずなの花の、花ことばってしってる?』 『え、花ことばってなーに?』 『おかーさんにおしえてもらったんだけど、お花には、そのお花につけられたことばがあるんだって』 『なずなって、お花なの?』 『そうだよ!』 『そーなの!じゃあ、お花のなまえだから、さくらちゃんといっしょだね!』 可愛いさくらちゃんと、自分の名前が同じ花の名前というのが嬉しかった。 私の中で溢れる昔の思い出をなぞるように、テレビの向こうでは佐倉さんが同じ思い出を音にする。 《ということは、佐倉社長は昔から美男子だったということですね!》 《小学生に美男子はちょっと恥ずかしいですね。でも、僕も幼かったので可愛いって言われたり、さくらちゃんって呼ばれることにそのときはあまり抵抗はなくて、なんなら佐倉って名前でよかったなと思えることがありまして、》 《なんですか?とても気になります》 《僕の好きなその子の名前が花の名前なんですよ。で、その子が花の名前だから一緒だねって言って喜んでくれて、幼い僕はそれがすごく嬉しくて。可愛いなと、そのとき胸を鷲掴みにされました》 香澄がテーブルに乗り出しながら私の顔を覗き込んでくる。そんな香澄の食べかけの親子丼はカラカラになっていた。 「て、ことはやっぱり、佐倉さんの初恋の人ってなずなで合ってたんじゃん!覚えてないなずなが悪い!」 「え、いや、でもだって、気づかないよ……、女の子だと思ってたんだよ!」 「あ、そっか」 「ちょっと、突然の事実すぎて、頭がついていかないんだけど、」 パキッと水の入ったペットボトルの蓋を開け、とりあえず落ち着こうと体内へ水を流し込む。 そんなこと、ある……? あのさくらちゃんが、佐倉さんだったなんて。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

457人が本棚に入れています
本棚に追加