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「え、どうしよう、香澄……」
「いや、あたしに聞かれても」
「なにか、あるのかな……?」
「あたしが佐倉さんなら、絶対会いに行く!」
違う番組の始まったテレビにリモコンを向ける香澄に問いかければ彼女らしい返答。
テレビを消した香澄は私を見かねてか「はぁー」っとため息を吐き出す。
「なずな最近、森坂店長のこと引きずってる感じないよね」
「え、なに急に……」
「どーなの?」
「たしかにもう、なんともない……」
「あたしは、それって佐倉さんのおかげだと思うんだけどなー」
ぐいっと私の顔を覗き込んだ香澄は、にこっと笑った。
「良くも悪くも、佐倉さんに出会ってからのなずなは毎日一瞬でも佐倉さんのこと考えてたでしょ?」
「……うん」
「いつの間にか、森坂店長より佐倉さんのことを考える時間が多くなってたと思うんだよなー」
「たしかに……」
「だから、あたしは次の恋の相手は佐倉さんがいいのでは?と思ってます!」
「なにそれ」
ふざけた口調で言いながら香澄はカラカラになった親子丼のゴミをコンビニの袋にまとめる。
「ま、こんなこと言ってるけど、明日なんにもなかったらごめん!全部あたしの妄想だから」
と、言った香澄の妄想が見事的中したことに私は驚いている。
妄想者じゃなくて、香澄は予言者なのではと思った。
ーー1月17日、今日は私の誕生日。誕生日だからといって特に予定もない私は普通に朝から出勤をして仕事をしていた。
お昼にはお店のメンバーに誕生日を祝ってもらい、香澄には「佐倉さんからなんかあった?」と朝から茶々を入れられ、なんだかんだ上りの時間。
やっぱり香澄の妄想はただの妄想だったなと思いながら、着替えを終え「お疲れ様です」とみんなに挨拶をして店を出た。
いつも通りの日常。昨日、テレビで見た全ては夢だったのではと思うくらいに。
ケーキでも買って、自分で自分のお祝いでもしようかと思っているところだった。
「……え、うそ、」
寒空の下、茶色のロングコートに身を包み白い息を吐き出す男性が1人。
私を見つけたその人は大きな花束を持ってこちらに歩いてくる。
いったい、いつからそこにいたんだろう。
「……さ、くら、さん」
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