「とりあえず俺に愛されとけよ」

6/11
前へ
/97ページ
次へ
「でも、じゃああの日、会いに来てくださった日に、どうして教えてくれなかったんですか……?」 「18年想い続けた相手に忘れられてて、簡単に教えるなんて癪だろ」 「いいじゃないですかべつに!教えてくださってたら、あの日に思い出してましたよ!」 「あの日思い出したとして“でも私には好きな人がいるからごめんなさい”じゃ、たまったもんじゃない」 「……」 「……てか、忘れてんなよ」 珍しく弱々しい声音をこぼした佐倉さんがじっと私を見つめる。 口角を上げると薄く唇を開いて、目を細めた。 「でも思ってたより効果覿面でよかったよ」 「……どういう、意味ですか……?」 蠱惑的に笑いながら意味深な言葉を吐いた佐倉さんは、とても楽しそう。 「俺が焦らして教えてやらないから、その間なずなは嫌でも俺のこと考えただろ?」 「策士ですか……?」 「そりゃ、ここまできたら俺で頭いっぱいにしてもらわないと困る」 要するに、佐倉さんの思うつぼだったということだ。佐倉さんに出会ってからの私の頭の中にはいつも佐倉さんがいた。って、香澄も同じようなことを言っていたっけ。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

457人が本棚に入れています
本棚に追加