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 投じられた銀貨は、微かに輝き放物線を描いた。床に無造作に置かれた裏返しのつば広帽が、飛来した金属を優しく受け止める。  傍らの椅子に腰掛けていた帽子の主は静かに小さく頭を下げると、その両手に抱える商売道具を優しく撫でた。右手の中指が緩やかに上下し、音にならない拍子を刻む。3度、指の腹が道具の腹を打ったところで、その指は弦に触れ、単調な旋律を奏で始めた。薄汚れた外見とは裏腹な繊細な音色が、ランタンの橙色に染められた酒場の湿った空気に染み出していく。店の奥まで届いたところで、詩人は口を開いた。 ここに語るは 王の歌 それは 王の中の王の勲詩 闇夜を照らす光 嵐を切り裂く稲妻 数多の王が立ち 争乱 血煙覆う戦の呪い 常世の地獄を破りし 聡明 偉大なる皇帝の物語 「またそれかよ」 「止めろ止めろ、白けるだろうが」 常連客から野次が飛んだ。詩人は静かに続ける。 闇の時代の辺境で 港に生まれた漁師の息子 その名も高き フォン・ルドルフ 齢14の幼きに 迫る軍勢破りし時より かの者 勇者の道を征く
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