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 桟道の下の海は深く、岩壁の他に頼れるものはない。軍勢は一瞬にして窮地に立たされた。鎧兜を備えた兵士達がいつまでも泳ぎ続けていられるわけもなく、岩肌に微かな頼りを見つけた者は必死に手を伸ばし、周囲の者はその身体に縋りつく。 重みに耐え切れず指が離れ、諸共絶望に飲み込まれる者もいた。  混乱の中、叱咤の怒声が響く。激励と命令を併せたその叫びに、周囲はたちどころに落ち着きを取り戻していった。隊を預かる者の、格、というものだろうか。その声は明らかに、信頼すべき隊長がそこにいること、部隊が崩壊などしていないことを示していた。  だからこそ。  飛来した銛は、隊長の胸を貫いた。  ルドルフは待っていたのだ。  ただ一撃で、敵を撤退させ得る瞬間を。  10歳にもならない頃から銛1本で漁を行ってきたルドルフにとって、海中に身を隠して軍勢を待つのも、水の抵抗のない海上の獲物に銛を放ち、刺し貫くのも、造作もないことだった。巨大魚の骨を削って作った真白い銛は、甲冑魚類の硬い鱗をも貫く。人の鎧など問題としない。問題となるのは、狙う相手と、タイミングである。  足場を崩し動きを止め、指示を出す者を狙う。ただそれだけの単純な方法だった。しこしそこには、「恐怖と混乱から立ち直ろうとしたその直後に、その希望の源を断つ」という狙いが含まれていた。その結果が、見えていたのだ。     
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