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この小さな悪戯好きの神様が、果たして本当の神様なのか。なんて疑問も一瞬よぎったけれど、そんな事はもうどうでも良かった。
このイナリという小さな神様の、話し方も笑い方も、私の周りをウロチョロする仕草も。
……見ればみるほど、アイツ自身に見えてくる様な、そんな気がしてならなかった。
まるでミチルの幽霊とでも戯れてるかのような、神様のふりをして、少し変な言葉遣いになってるだけのような。いつの間にかそんな気分になっていた。
「あぁそうだ、結局言えないままになるとこだった。」
「そういえば何か言いかけておったのう。言付けなら引き受けるぞ?」
「あぁ。君にも言っておかないとね。……まだはっきりとは言い切れないけど、……ココに来るのはもう、多分今回で最後になるかな。」
「なんじゃ、せっかくなのにもったいないのー。」
「いつまでも思い出に引きずられっぱなしじゃ、やっぱり何も出来ないし、幾つかやっておきたい事も見つかったから、しばらくはソレに専念したいんだ。」
そこまでの事をイナリに話しきった時、私はふと何かを思い出したかのように、携帯電話を取り出していた。指先の感覚だけでロックを解除し、振動で待受画面になったことを確認する。
「何じゃソレは……。それも……携帯電話なのか?」
画面に浮かび上がるミチルの笑顔をそっと覗き込むと、イナリもその仕草に気がついたのか、ふわりと肩の後ろに回り込み、携帯電話の画面を覗き込んできた。
「あ、今でもその写真なんだね。……てか、機種変してもソレなんだ。いい加減変えなよ」
一瞬自分の耳を疑った。ミチルがこんな事になる2年前と全く同じセリフを、今こうしてもう一度聞くことになるとは思ってもいなかった。
「あ、やばっ……! ……あーぁ、せっかくうまく誤魔化せてたのに。」
「やっぱり、君だったんだね。……久しぶり。ミチル。」
「……うん。……久しぶり。……本物のイナリちゃんのチカラがなかったら、こうやって出てくることも出来なかったんだけどね。あ、ほら。おいで。」
何かの物陰に気がついたのか、イナリの姿を借りたミチルが本殿の方へ目を凝らすので、俺もその方向を探してみた。 拝殿の柱の陰に、ミチルのソレ同じ様な、クリーム色のしっぽが見え隠れするのを、私も見逃さなかった。
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