2.現れたのは

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 鈴のような「シャン」という音が聞こえたかと思うと、山肌を駆け上がる風が少し強く吹き付けてきた。  慌てて姿勢を立て直し、風がやんだところで周囲を確認すると、眼の前に緋色の袴を着た小さな女の子が一人。 「おう。今年も来よったか。熱心なことじゃのう。」  その背後からは、淡いクリーム色をしたキツネの様なしっぽがちょこんと伸ばし、ふわり、ふわりと、私の目線に合わせるように浮遊していた。 「俺、疲れてんのかな……。えーっと、あんたは……。」 「なんだ。この姿でわからんというか。お主の後ろ、そこの神社に祀られておる神の化身じゃ。」  彼女はそう言いながら、ふわりと宙を泳ぎ、音もなく神社の縁側に腰掛けた。 「いや、その辺は何となく想像つくけど、……なんつーか、なんで俺なんかの前に……」 「ついこの間まで、”お祭り”とやらをやっててウチの前が煩くての。少しふもとの町まで”お散歩”に出ておったんじゃ。流石に腹が減って、ちぃとばかり、スイカとかいう実をもらって食べてみたんだが、アレは好かんなぁ。」 「……お、おう。……ソレ、生きてる人間がやったら犯罪だぞ。」 「水っけばっかりですぐ腹が減ってしまう。食べるのなら、やはりリンゴだわな。腹持ちも充分じゃし。この時期はまだ小さくて、食べごろのはまだ少ないんじゃが、今年は期待できそうじゃのう。」 「何処からツッコんだら良いのか……。ともかく要は、その”お散歩”から帰ってきたら、ちょうど私がココにいたと。」 「まあそんなトコじゃ。それにお主、確か去年もその前もここに来て、手を合わせて行ったであろう? わざわざ此処に来んでも、此奴の墓は別に有るのじゃろう? それでもここへ訪ねてくる事に、わしは感心した。せっかくなんで、そのツラを見ておいてやろうと思ってな。こうして姿を現してやったわけじゃ。」 「……はぁ。そうですか。」 「……なんじゃ、この姿より、ジジイの格好の方が良かったか?」  ふわりとまた宙に浮かぶと今度は、ぽんっ。と煙を立てて、杖を持った仙人の姿に変わり、煙から姿を変えた筋斗雲の上に、ぴょんと降り立った。 「……うん。俺、相当疲れてるな……。まぁ所詮はフィクション、誰かの”書き物”の世界なんだし、こういう事も多少覚悟はしてたけどね。ともかく早めに帰ろう……」
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