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「な、なんてことだ! おい、お前たち、俺の頬をぶってくれ! これは夢に違いない。世の中の女子に、こんな獣が紛れているなんて――」 「誰が獣だ!」 頭を抱えて大げさに首を振るウィリアムに、ドロシーは噛みつくように怒鳴った。 「……ウィリアムさま」 ウィリアムの背後に、一人の男が近づく。 「どうした、グレイル――へぶぁっ!」 振り返ったウィリアムの頬に、握り拳がめり込んだ。 殴ったのはグレイルという濃灰色の髪をした男子生徒だ。 (な、なんだよ、仲違いか?) ドロシーは唖然としながら、グレイルを見上げる。 くすんだ青い双眸をのぞき込んでも感情が見えず、余計に不気味だ。 「痛いですか?」 「ああ、痛い。ありがとう、グレイル。どうやら、これは夢ではないようだな」 赤く腫れた頬を押さえながら、ウィリアムは言った。目にはうっすら涙が浮かんでいる。 (あほか、こいつら……) 殴られたというのに嬉しそうなウィリアムに、ドロシーは白けた視線を向ける。 「……アンタら私のこと忘れて楽しそうにするな」 「なんだ、羨ましいのかい? 見るからに、君は友達がいないタイプだからな。さては、俺たちの仲の良さを見て羨ましくなったのだな?」 左ほおを赤くしながらも、ウィリアムは涼しげに髪を掻き上げる。
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