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「こうやって、パイを焼いている時だけはマザーに会える気がするんだ。一人じゃなくて、マザーが傍にいるって気がする」 初めてパイを食べた時、冷たくて固いパイがドロシーの心を温めてくれた。 一人じゃないことが、どれだけ温かいのかを教えてくれた。 「マザーがいなくなってから、ずっと一人だったから。でも、このロッジに来てアンタたちと暮らすのも悪くないかなって思ったんだ」 ドレスが燃えた時、どうしようもなく虚しい気持ちになった。 手に入れかけたぬくもりを失うような、冷たい気持ちだ。 「あのドレスを貰った時、本当はすごくうれしかった。だから、もういらない。もう一度ドレスを貰っても、きっとまた失くしてしまう」 それが一番怖かった。 また手に入れても、いつかは失くしてしまう。 マザーが亡くなった時、大切なものを失うことの怖さを知った。 「――ドロシーは一人になるのが嫌なのだな。だから、何かを失くすことを恐れている」 ウィリアムは俯いたドロシーの顔をのぞき込んだ。 心の底をのぞかれた気がして、ドロシーは唇を噛みしめる。 痛いほど噛みしめた口元に、ウィリアムが触れた。 驚いて顔をあげると、ウィリアムは笑いながら胸を叩く。 「だったら、俺を好きになればいい!」 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
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