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「完全な世界ってなんだよ! そんなもののために、マザーは死ななきゃなんなかったのかよ! アンタらにマザーの何がわかるって言うんだ。マザーはアンタたちになんで殺されなきゃなんなかったんだ」
ドロシーは泣き叫びながら怒鳴った。
悔しくて、腹立たしくて、彼女のみじめな人生が哀れで――全身から怒りが溢れだして燃えてしまいそうなほど熱い。
「マザーを返せよ! 私のお母さんを返してよ!」
手を振り上げて風を起こしたドロシーは、それをトト・ワイスに向かって放った。
「仕方がない子だね」
トト・ワイスは駄々をこねる子供に言い聞かせるような口調だ。
放たれた風の前に男達が立ちはだかり、一斉に指先をドロシーに向けた。
風がポピーの花びらを巻き上げ、花弁がドロシーの頭上から降りかかる。
黄色い花粉を吸いこみ、ドロシーはくしゃみをした。
(……なんだ、気持ち悪い)
くしゃみをした拍子に頭を振ったドロシーは、めまいに襲われた。
世界が反転するような感覚に襲われた。
足から力が抜け、崩れるようにドロシーはポピー畑に倒れ込んだ。
白けた視界の向こうに、誰かの姿が見えた。
ぼんやりとした思考でその影を見る。
「マザー、ウィリアム、セイリュウ」
そこに見えたのは大切な人たちだった。
夢の中に見えた人たちに手をのばすが、その手は届くことなく意識が遠のいていった。
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