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(この、かまってちゃんが……)
男のくせに面倒な奴、と心の中で毒づく。
実際に口に出すと、余計面倒なことになるのでやめておく。
「この前、授業をサボったから、罰として早朝に教室の掃除をしなくちゃなんないんだよ。――別に、アンタと食事をしたくないわけじゃないっての」
ドロシーは乱雑に髪を掻き、ウィリアムに説明する。
「本当か!」
ウィリアムはパッと顔を明るくした。
瞳に溜まった涙のせいで余計に目が輝いて見える。
こうして、一瞬にして元気になるところは嫌いじゃない。
「それならば、仕方がないな。アンバー、パイの用意はできているか?」
「できてる、けど――」
いつの間にか部屋にいたアンバーは、ドアの前で小さなバスケットを持っていた。
「おお、それか」
ウィリアムはいそいそと、アンバーからバスケットを受け取る。
それを差出し、ドロシーに向かって言った。
「いってらっしゃい、ドロシー」
キラキラとした満面の笑みを向けられ、ドロシーは面食らう。
(――ああ、そういうことか)
期待に満ちた視線の意味が、すぐに分かった。
それでも、その期待に応えることが気恥ずかしくて、らしくなく狼狽えてしまう。
けれど、ここでこの言葉を言わなければ、再びウィリアムが面倒なことになる。
少し考えてから、ドロシーはバスケットを受け取った。
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