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ようやく昼食に戻り、秋哉はカズエの作ったハンバーグに舌鼓をうっているわけだが、
「美味い美味い」
と食べてもらえてもカズエは素直に喜べない。
どうして秋哉は、あんなに簡単にご飯が食べられるのだろう。
カズエもハンバーグを口に運ぼうとして、でも結局はフォークを置いてしまった。
自分の唇が妙に気になる。
それから秋哉の唇も……。
思わずキスしてしまった。
あの時は、無茶しようとする秋哉を引き止めるために必死だった。
秋哉は、あのキスを一体どう思っているのだろう。
まるで何事もなかったかのように食事をする秋哉は、もしや、カズエのことを女の子として意識すらしていないのか?
それともまさか、たまたまぶつかっただけとでも思っている?
秋哉ならありそうなことを想像してしまい、
「ねぇアキ!」
バンとテーブルを叩いて立ち上がる。
「ん、あ?」
秋哉はマヌケな顔でこっちを見た。
「何でご飯なんか食べられるのよ」
ゴクンと口の中のハンバーグを飲み込む秋哉。
「何でそんな平気なの? 何で何も言わないの?」
こんな風に問い詰めるつもりなんかないのに、一度口から出てしまった勢いは、もう止められない。
「さっきのキス、アキは一体どう思ってんの?」
取り返しがつかないことを言っている自覚はあったが、どうしようもない。
秋哉は、じっとカズエを見つめてきた。
「カズ、オレは――」
「やっぱ、いい!」
カズエは大声を出して秋哉を制する。
「いいわ。何も聞かなかったことにして」
自分から言い出したのに、秋哉の答えを聞くが怖い。
これまでの関係が変わってしまうのが怖い。
秋哉のひとことで、なにもかも終わってしまうのかもしれないのだ。
カズエと秋哉のこれまでが、――全部終わってしまう。
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