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春一はカズエを見ながら、ふと怪訝に眉をひそめる。
自分が何かしてしまったのかと、思わず首をすくめると、
「秋哉のやつ、まさか生肉を食おうとしたの?」
「え?」
「それ、えらく大事そうに抱えてるから」
カズエは、手に挽肉を入れたボウルを持ったままだった。
ハンバーグのタネをこねたきり、すっかり忘れていた。
「秋哉がつまみ食いしそうになって、それで守ってるのかと」
心配そうに言う春一に、カズエはテーブルの上に慌ててボウルを置く。
「いえいえ、そんなわけはなくて」
まさか兄弟たちに圧倒されて、見惚れていたなんて言えやしない。
困ったなと首を傾げていると、秋哉がズイと春一の前に進み出た。
「いくらオレでも、そんなもん食わねーよ」
春一が苦手というカズエの気持ちを汲んだわけではないだろうが、目の前に立ってくれたお陰で、視線が遮られてホッとする。
秋哉はシッシと手を振ると、
「いーから、さっさと出かけやがれ。やっと予約できたデートプランなんだろうが」
秋哉に言われて、春一と鈴音は顔を見合わせる。
鈴音のデートの相手は、やっぱり春一だったのだ。
当たり前といえば当たり前の話だが、婚約者同士のこのふたり、なんでも普段はあまりデートらしいことはしないらしい。
でもせっかくのクリスマスだからと春一が奔走して、とてもステキなディナーと宿泊の予約を取った。
しかし鈴音は乗り気な顔をせず、
「みんなはどうするんですか?」
と言う。
「私たちだけで美味しいものを食べるなんて、ちょっと気が進みません。どうせならみんなで行きませんか?」
「……」
クリスマスイブの夜に、婚約者同士の間に挟まって食事する方が気まずい。
誰しもそう考えると思うのだが、鈴音にとっては違うらしい。
「ディナーの予約、5人分に変更できませんかね?」
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