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夏樹と冬依の予定が決まると、鈴音は今度はクルッと秋哉の方を向いた。
「……ウッ」
思わず秋哉は尻込みする。
それを鈴音は見逃さなかった。
「まさか秋哉くん、イブに予定はないの? テッペーくんはいないの?」
クリスマスイブの相手なのに、出て来るのがテッペーの名前なのがツライ。
鈴音は秋哉の友人がテッペーだけなことを、イヤというほど知っている。
しかし夏樹の華やかなデート、冬依の派手なパーティの話の後では、秋哉の交友関係の再確認は、ひどく胸に刺さった。
「テッペーは、いねぇ……」
秋哉の悪友のテッペーは、今年も合コンだパーティだと大はしゃぎしている。
そりゃあ頼めば秋哉も混ぜてくれるだろうが、正直どっちも気が乗らず、すでに2回も誘いを断っている。
今さら前言撤回するのも、なんだか癪な話だ。
『ヤベェな』
と思った瞬間、
「カズと約束があるんだ」
ポロリとこぼしていた。
「カズエちゃんと約束!」
鈴音の声にとたん喜色が乗る。
「え、テッペーくんがいないんなら、もしかしてカズエちゃんとふたりきり? それってデートじゃないの?」
たたみかけてくる鈴音に、
「違ぇよ。ちょっと遊ぶだけだ」
つい嘘を重ねてしまう。
と、
「秋哉くん、……クリスマス用のお小遣い、ある?」
とたん、心配そうな顔に変わる鈴音。
秋哉の財布事情に詳しすぎるのも、家族の弊害だ。
痛いところをつかれて思わず黙る秋哉に、
「秋哉くん。お小遣いの前借り、一緒に春さんにお願いしてみよう、か」
自分も貧乏だから、そんなことしか言えないらしい。
あまり大きな声でも言えず、声を潜めて顔を近づけてくる鈴音に、
「いらねーよ。余計なことすんな!」
秋哉はつい声を荒げてしまった。
鈴音のいらぬ気づかいにもムカつくが、それより何より、今にも殺しそうな目でこっちを睨んでいる3人の視線が怖い。
鈴音に近づきすぎれば、後でどんな目に合わされるかわかったもんじゃない。
ヘタすりゃ、いわれもないのに殴られる。
鈴音は、この家での己の立場に、これっぽっちも自覚がない。
「金なんかいいんだよ。カズとはウチで遊ぶんだから」
「まあ、おうちデート!」
秋哉のひとことで、鈴音は空を飛びそうなくらい舞い上がった。
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