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ハンバーグをフライパンに乗せて、中まで火を通すために弱火にしてフタをかぶせたら、なんとか自分の気持ちにもフタをすることが出来た。
少しだけ気分が落ち着いてくる。
でもそれは、さっき秋哉が、カズエの出した青汁ジュースを一気飲みしてくれたせいかもしれない。
体に良いと聞いて、ハンバーグに混ぜるつもりで持ってきたのだが、派手な兄たちに見惚れたせいで、すっかり忘れていた。
でも、忘れて正解だったかもしれない。
青汁ジュースを一気飲みして、まずそうに顔を歪めた秋哉を見たらそう思った。
カズエの無言の圧力に黙って飲んでくれたが、アレをハンバーグに入れていたら、今ごろどうなっていたことやら。
秋哉のくしゃくしゃになった顔で気も晴れたので、焼けたハンバーグを皿に乗せて、プチトマトと秋哉が作ってくれたハタを飾る。
クリスマスというより、お子様ランチっぽくなったが、とにかく料理は完成だ。
「アキ、できたよ」
秋哉を呼べば、
「おー」
短く答えて、ぎこちなくこちらにむかって歩いてくる。
よほどさっきの青汁ジュースが懲りたのかと、
「大丈夫、こっちは成功したよ」
ハンバーグを指して教えてやれば、
「おぉ、そうか」
秋哉はホッと息をつく。
この屈託のない素直な秋哉が、カズエは好きだ。
いつもまっすぐに感情を表にだす秋哉。
でももしも、カズエが今夜、自分の心内を告白したなら、秋哉は一体どんな顔をするだろう。
意外すぎて何も言えなくなる? それとも驚く?
そして、はたして秋哉の答えがどうでも、カズエと秋哉は、今みたいなオトモダチ関係に、二度と戻ることはない。
この関係が心地よすぎて、それを失うのがもったいなさすぎて、だからカズエは何も言えなくなる。
今夜も、きっと何も言えないだろう。
この聖なる日にふたりきりでいても、臆病なカズエは何も言えないのだ。
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