佳境に入ったパーティ

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「まあ、しょーがねーんだけどな」 風呂場の脱衣所も兼ねた洗面所の鏡越しにカズエを見ながら秋哉は言う。 「スズネが見つける前にヤツを始末しなきゃあなんねーから、自然とそうなった」 「……へぇ、鈴音さんの前に」 納得出来る紳士なセリフ。 秋哉の口から鈴音の名前を聞くのはちょっと胸が痛むが、それでも同居を始めた兄の婚約者の目に、Gがとまる前に始末しなければ、と考える弟たちは愛しい。 ほっこりするいい話しだ。 しかし、 「スズネのやつ本気でヤベーんだぜ。アレのことは全然ヘーキなんだ」 仰々しいぐらいに眉をひそめる秋哉の言いたいことは、どうやら違うらしい。 「スズネが育った北海道にはアレがいねーんだとよ。それでカブトムシかと思ったなんて言って、虫かごに捕まえてたことがあった。オレはめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしたスズネに、アレを至近距離で見せられたことがある」 かたくなにGの名を口にしない秋哉を見れば、それにどんなに衝撃を受けたかわかるが、でも、さわれと言われたわけでなし、虫かごに入ったGを見せられただけで、そんなこの世の終わりみたいな顔をしないでもいいと思う。 『アキってば、思ってたよりヘタレなんだ』 思っていると、 「全部ハルが悪ぃんだ」 「お兄さん?」 いきなり出てきた長兄の名前。 カズエはちょっと苦手だけど、でも秋哉たちの信頼を一身に集める来生家の大黒柱。 秋哉は、 「もともとアレの退治はハルの役目だったんだ。でも一回シトメ損ねてな。逃げたアレが飛んで、オレの背中にとまった」 思い出すのもおぞましいと大きく体を震わせる。 「そう、背中に……」 さすがにそれはトラウマにもなる。 飛んだGが背中にとまるだなんて、かなりイヤすぎる。 すると秋哉はネットリとした視線をカズエに寄越して、 「まだ終わらねーぞ。オレの背中にいるアレを、ハルの野郎、勢いあまって素手で叩き潰しやがった」 「!」 「わかるか? 超ド級のハルのパンチを受けてオレの背骨がキシむ音より、グシャッていうその音の方が耳に残るんだ。わかるかカズ……」 恨みがましい目をして、秋哉はカズエを振り返る。 洗いっぱなしの両手からポタリポタリと水滴を垂らしながら、 「グシャッっていうんだぜ、グシャッて……」 こちらににじり寄ってくる秋哉の何とも言えない迫力に、 「わかった、わかったからアキ。ちょっと落ち着いて」 カズエは震え上がった。
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