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いきなり、
「カズ――!」
秋哉がカズエを抱きすくめてきた。
「えっ!?」
風のように距離をつめた秋哉に、カズエはなすすべもなく、よろけて狭い洗面所の壁に背中をぶつける。
「……カズ」
抱きついたまま耳元でささやく秋哉の声は掠れている。
その声音が色っぽくてドキンと心臓が跳ねた。
カズエは、秋哉と壁の間に挟まれてしまう。
これは、噂に聞く壁ドンというものではないだろうか。
ドラマやマンガで見るのよりも、もっと距離が近いが、秋哉の抑えきれない情熱がそうさせるのか。
「……ア、アキ」
突然降りかかってき少女マンガ的展開に、カズエはついて行けない。
秋哉を押しやろうと、体の間に腕を差し入れると、
「シッ――、静かにしてろ」
秋哉が耳元でささやく。
「!」
なんだ、この突然の強引さは。
秋哉にしては信じられないほどの性急さで、カズエにぐいぐい来る。
もしかして、思いがけなく握ってしまった秋哉の弱みが影響してるのか?
恥ずかしさのあまりキれちゃったのだろうか。
学校で言いふらされると困るとでも思って、こんな手段に……。
「アキ大丈夫よ。私、誰にも言わな――」
「黙れって」
秋哉は声を潜めながら、大きな手のひらでカズエの口を塞ぎ……。
『ウソォー』
ますますパニックになるカズエを、秋哉は骨も折れんばかりに抱きしめる。
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