70人が本棚に入れています
本棚に追加
自分はどうなってしまうのだろうと、心臓をバクバクいわせるカズエに、
「誰か入って来た」
「……え?」
「誰かが家の中に入ってきやがった」
秋哉が教える。
「へ?」
意味がわからずキョトンとするカズエに、秋哉は目だけで廊下の方を示した。
「シンニューシャだ」
秋哉の視線を一緒に追いながら、
「シンニューシャって、冬依くんとかが帰ってきたんじゃないの」
侵入者が頭の中で漢字にならず小声で聞くと、
「トーイが忍び足なんかするかよ」
秋哉は苛立たし気に否定する。
その顔は冗談を言っているものではない。
『まさか!?』
試しにいったん口をつぐみ様子をうかがってみれば、確かに、ドアが面した廊下からスルスルと足音がする。
ずいぶん耳をすませていないとわからない、靴下で歩く音だ。
「あんな歩き方すんの、家族じゃねぇよ」
「!」
侵入者だなんて、考えられるのは空き巣か泥棒しかない。
いや、洗面所に秋哉やカズエが潜んでいることがバレれば、居直り強盗になってしまうかもしれない。
カズエの喉はゴクリとなる。
「ど、どうすんの?」
震えるカズエを、秋哉はもう一度力強く抱き直し、
「このままやり過ごす。あいつがリビングの方に行ったら、隙みて玄関から逃げるぞ」
秋哉の提案に、カズエはコクリコクリと顎を動かす。
スマホはキッチンに置いたままだし、相手は武器を持っているかもしれない。
とにかく逃げるのが先決だ。
最初のコメントを投稿しよう!