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しかし、
「あいつ、動かなくなった」
「え?」
「すぐそこにいる」
秋哉はドアを睨みつけたまま恐ろしいことを言う。
「……そこにいるって?」
まさかと思って震える声で聞くと、
「オレらがここにいること、もうバレてる」
「!?」
恐ろしさのあまり息が止まった。
確かに、秋哉もカズエも、別に洗面所に隠れていたわけではない。
カズエは誰かが家に入ってきたのにも気がつかなかった。
だから、侵入者の方が先にこちらに気づいたのだとしても納得がいく。
でも、家人がいることがわかったならさっさと逃げればいいのに、もしやこっちが未成年なことを知っていて開き直ったのだろうか。
泥棒が今日は来生家に入ると決めていて、朝からジッと家の様子をうかがっていたのだとしたら、その可能性は十分にある。
来生家の家族構成を熟知の上、そしてカズエのことを冬依と勘違いしていて、夏樹も鈴音も春一も出かけていったのを確認してから、家に入ってきたのだとしたら……。
ふうっと血が下がる思いがして、カズエは気が遠くなった。
緊張のあまり、貧血を起こしたのだ。
腰が落ちるのを秋哉が支えてくれたが、カズエはとうとう床に座り込んでしまう。
「アキどうしよう。私たち、どうなるの」
さっきまで走って逃げるつもりだったのに、もう足に力が入らない。
秋哉にすがる声も、震えのあまりガチガチと歯が鳴っただけで言葉にならなかった。
「――カズ」
秋哉は、カズエの名前を呼んだ。
「ダイジョーブだ」
顎をあげれば、秋哉はカズエにいつもの笑顔を向けてくれる。
「任せとけ。オレが必ず守ってやる」
秋哉は座り込むカズエの頭にポンと手のひらを乗せると、くるっと踵をかえす。
そのまま侵入者の待つドアの方へ向かって行こうとした。
思わず、秋哉のTシャツの裾を掴んで引き止めるカズエ。
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