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秋哉は不思議そうな顔をして振り返る。
「ん、ダイジョーブだって」
どこから来るのか自信満々で、そしてカズエを安心させるように、もう一度ニカッと歯をみせて笑う。
でも――。
カズエは決心して、やおら立ち上がると、秋哉の襟元を引き寄せて口づけていた。
勢いのあまり歯がぶつかったが、そんなことは気にならない。
他に何も考えられなかった。
びっくりして秋哉の息が止まったが、でも、カズエはそうせずにはいられなかった。
「……」
しばらくした後、つま先立った踵をゆっくりと下ろして離れれば、すぐ目の前に見開いた秋哉の大きな瞳。
普通より明るい色の琥珀色の瞳だ。
いつもは眉間に皺を寄せ、唸りをあげる狼の子どもみたいな険しい目つきばかりなのに、こうやってキョトンとしていると小さな仔犬とかわらない。
昔からちっとも変わらない愛おしい瞳、優しい顔。
カズエは、
「私もやる」
「……」
「アキひとりを危険な目には合わせらんないよ。私もやるから」
「お、おう……」
カズエの迫力に押されたのか、秋哉はぎこちなくうなずいた。
でもすぐにカズエに背中を向けて、見上げるカズエから視線をそらす。
それから顎だけを動かして、
「そこにモップがあるだろう。カズはそれ持ってオレの後ろにいろ」
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