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小さなプレゼント
「いやぁ、まいったな」
秋哉は頭をかきながらダイニングの椅子に座り、カズエが作ったハンバーグを一口食べては、
「ウメェ!」
と大げさに声をあげている。
カズエはそんな秋哉を横目で見て、
「はぁーっ」
大きなため息をついた。
女は来生家の次兄、夏樹のストーカーだった。
ホストクラブで出会った夏樹に会うために、クリスマスイブの今日、家まで押し掛けてきたらしい。
玄関の鍵は、開いていたそうだ。
確か、最後に家を出て行ったのは春一と鈴音だ。
「スズネのヤツ、鍵を忘れやがって」
秋哉はさもありなんとうなずくが、それにしてもうっかりしすぎだろう。
鈴音もそうだが、あのしっかりした春一にしては、ありえない失態。
久しぶりのデートだというから、浮足だってでもいたのか?
19時には帰れとカズエに念を押す真面目な保護者だから、それは、高校生の男女を家にふたりきりにする時の、春一なりのエチケットだったのかもしれない。
だけどこの機会だから認識してもらいたい。
秋哉よりも、世間で平凡な顔をしている普通の人の方が、よほど危ないということを。
女は、
「ナツキがいないなら用はないわ。サヨナラ」
と言い捨て、さっさと帰っていった。
「ちょっ待ちなさいよ、ふざけないで!」
カズエが引き止めようとするのを、秋哉は首を振って止める。
「別にいーよ、何もなかったんだから」
家主の秋哉が言うのなら、それ以上はどうしようもない。
その代わり秋哉は、
「ナツキのヤロー、後でこっぴどく叱ってやる」
と張り切っていた。
交友関係の過ちは、各々に責任をとらせる。
来生家らしい考え方だ。
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