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すると、
「おーおー、仲の良ろしいこって」
「夏樹さん!」
キッチンに来生家の次男、夏樹が現れた。
夏樹は、つい見惚れずにはいられないほどに美人の、秋哉のすぐ上のお兄さんだ。
男に『美人』という形容詞はおかしいかもしれないが、それ以外に相応しい言葉はない。
そんな美人の夏樹が、秋哉とは反対側からヒョイッと顔をのぞかせて、
「へぇハンバーグ? ナツメグは入れたの」
なんて聞くものだから、
「いえ、あの、ハンバーグヘルパー使ってますから……」
思わず口ごもってしまう。
「ああアレ、美味いよね」
にっこり笑う夏樹は、別にイヤミを言っているわけではないのだが、実は調理師だということを知っているから、カズエはなおのこと恥ずかしくなってうつむいてしまう。
これだけ美人さんなのに、実は手に職も持ってるなんて、手料理を振る舞われる彼女さんはさぞかし幸せだろう。
すると、
「ナツキ、オレの客にちょっかいかけてんじゃねーよ」
カズエの背後で、秋哉がゴインと夏樹の足を蹴っ飛ばした。
蹴ったせいで秋哉の体がカズエに触れるほど近づいて、ますますドキドキする。
こっちはボウルを抱えているから動けないし、それに秋哉の、
「オレの客にちょっかいかけるな」
という言葉。
まるで秋哉に独占欲があるみたいじゃないか。
今日は秋哉に招待されたクリスマスイブの日。
駅前で秋哉と待ち合わせをして、その足で料理を作るための買い物に行って、お昼前には来生家に到着した。
実はその間、カズエはずっとドキドキしっぱなしだ。
だってまるで新婚夫婦みたいなスケジュールじゃないか。
と、夏樹がクスクス笑いながら、
「余計なこと言ってごめんね、カズちゃん」
言うので、これ幸いと体を横に向けて、夏樹と向き合ってしまう。
「いえ、良かったら今度、夏樹さんに料理を教えてもらいたいです」
これで秋哉と少し距離を開けられた。
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