一話:完成しない脚本

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 はにかんだ笑顔をしているあの子のお母さんが、すぐに監督さんに頭を下げて、あの子の手を引いて去って行く。  次はCM撮影らしい。あの子は引っ張りだこの子役だから。  私はなにもかもが馬鹿らしくなりながら、同じように座っていたはずの保護者席にいるお母さんを見る。お母さんは悔しそうな顔で、あの子とあの子のお母さんを見送っているのが目に留まった。  私の今日の演技、今度のドラマでワンカットでも使われたらいいけれど。残念。きっと今回もいらないからとカットされる。  端役、ちょい役だったらまだフレームの向こう側に行けるけれど、私は一度もフレームの向こう側に行けた試しがない。  あの子がいなくなったあとも、演技は続く。教室の雰囲気を取るためだ。私はまた、クラスメイトとくだらない会話をする。今度は口パクじゃないけれど、果たして使われるんだろうか。そう思っても、私とクラスメイトはくだらない話をして、笑っていた。  心では笑っていなかったけれど、私はあの頃が一番よく笑っていた頃だと思う。  その年を最後に、私は事務所をクビになった。  子役というには年を食いすぎたけれど、女優に昇格できるほどのキャリアも演技力もなく、それでも事務所が手放したくないほど裏にコネもなく、美人でもない。     
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