一話:完成しない脚本

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 うちの学校は単位制高校で、行きたいときに行けばいいし、行きたくなかったら行かなくていいという緩い校風だった。年齢層もバラバラで、社会人と高校生が一緒くたに授業を受けているのはちょっと面白い。社会人のほとんどは夜から来るらしいけれど、たまに昼から授業を受けている人もいる。  なによりもありがたいのは、ここでは人間関係が希薄でも、熱心に「友人がいないと人生の損失だ」という教師もいなければ、「ぼっち可哀想」と憐れむ女子もいないということだ。この学校に通っているのは皆訳ありなんだから、放っておけばいいんだ。中学時代はそのせいでひどく嫌な思いをしたんだから。  私は机の跡が引いたのを確認してから、プリントを束ねて鞄の中に押し込み、ようやく教室を出た。教室の戸締まりは見回りの先生がやってくれるから、開けっぱなしで帰っても怒られないのも、うちの学校の緩いところのひとつだ。  うちの学校で数少なく活動している野球部の、緩いかけ声が響いている。やる気があるのかどうかは、私は知らない。  夢を追いかける。そういう風なのがないのがありがたかった。  人生の半分、芸能界の端っこにいたせいで、夢の大半が幻想だと思い知ってしまった私は、いまいちそういう暑苦しいものを信じることができなかったから。     
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