一話:完成しない脚本

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 子役をしていたとき、今まで私と同じように端役だった子が、ある日突然抜擢されて、テレビで見ない日がないくらいに目まぐるしく活躍するのだって、逆にある日を境に昨日までしゃべっていた子がスタジオに来なくなることだって見た。  事務所の力だとか、親が大物芸能人だとか、単純にプロデューサーの目に留まり抜擢されたシンデレラなのか。最初に一緒に事務所に入った子が、気付けば手の届かない、話しかけるのもはばかられるような距離にいるのは、ものすごくよくあることだった。  でもその一方で。目立たなかったら消される。干される。それもひっそりと。  シンデレラは皆から持てはやされてそれのおべんちゃらをさせられたこともあるけれど、いなくなった人のことを口にするのはマナー違反だと、誰も口にしないのが怖いところだった。  次は自分かもしれない、そう思うのはどっちのことなのか、ときどきわからなくなった。ただ、自分が立っている場所はとてつもなく不安定なことだけは、よくわかった。  私は子役と名乗ってはいたものの、名前のある役をもらえたことは、事務所をクビになるまでに一度だってなかった。  お母さんは「あなたには才能がある」「目立てば絶対に勝てる」「ちゃんとしていれば」と口酸っぱく言うけれど、それが私にはひどく滑稽に見えていた。  私、ここでちゃんと頑張っていたよ? でも、無理だったよと。  子役を卒業して、義務教育の中学校に通ってみても、ちっとも楽しくなかった。  普通の中学生が当たり前に知っているマンガの名前も、やっているゲームのキャラも、きゃーきゃー言いながら応援しているアイドルの顔と名前も、なにひとつわからなかったのだから。  私には皆の共通の話題がない。私と同じように必死に渡された脚本を覚えた子もいなければ、有名監督の名前だって、プロデューサーの名前だって、誰も知らなかった。  私は皆がマンガを読んでいる間、ゲームをやっている間、歌番組を見ている間も、ずっと稽古とオーディションを繰り返したのだから。  最初は世間知らずだと判断した私を、あれやこれやとお世話してくれる女の子はどこにでもいたけれど、私の言葉の節々でイラついて、次々と離れていった。     
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