一話:完成しない脚本

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 アイドルグループのオーディションに履歴書を出したとこっそり打ち明けてくれた子に、私は思わず言ってしまった。 「あそこ、一度採用されたからと言って、カメラに映れる訳じゃないよ? 採用された中でさらにオーディションがあるんだから」  声優になりたいと夢を語る子に、私は思わず言ってしまった。 「顔が可愛い子が優先されるし、アニメのキャラが第一に来たら、他のことは全部ないがしろにされるようになるからね」  私はクラスメイトの夢を否定したかったんじゃなく、見てきたことをそのまま口にしただけだったけれど、オブラートに包んで言うということがてんでできなかった。  子役時代、どの子も皆にこにこと笑っていたけれど、その実ガツガツしていたから、ちょっとやそっとで折れる神経の持ち主なんていなかったけれど、その状態のほうが異常だったということを、私は中学生になって初めて知った。  無神経。無責任。夢がない。知ったかぶり。ムカつく。  ただでさえ義務教育がまともにできていない状態だったのに、世話焼きの子たちはどんどんと遠ざかっていった。気付けば私は、いてもいなくっても同じ状態の透明人間状態で、いろんな情報を回してもらえない状態になってしまった。  地元の高校の情報はおろか、クラスの小テストの情報まで回ってこず、私の成績は急降下していった。……元々丸暗記以外は不得手だったから、数学や国語は壊滅的だったんだ。記憶力頼りの科目まで落としていたんじゃ、テストの点だって上がる訳がない。  地元の高校は公私共に全滅。唯一受かった学校が単位制高校だったという訳だ。     
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