一話:完成しない脚本

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 私は怖々と予備室棟に足を踏み入れたのだ。  匂いはつるんとしていて、校舎棟となにかが違う。どの教室も窓が開けっぱなしになっているのは、誰かが掃除していたせいなのか、換気のために定期的に誰かが窓を開けているのかはわからない。誰もいない校舎なんて不気味なだけなのに、どうしてわざわざ不気味さを加速させるんだろう。  空き教室のひとつひとつを開けて、プリントを探す。入って角部屋になっている教室で、ようやくプリントを発見した。 「はあ……よかった」  入っているプリントは図書館便りだったけれど、捨てっぱなしよりはましだろうと、私は鞄に突っ込み、今度は飛ばされないようにとしっかりと留めておいた。  用事も済んだし、帰ろう。そう思ったとき、背後でパサリという音がして、私は足を止めた。  ……今日は、どうしていちいち得体の知れないなにかに足止めされる日なんだろう。  私は振り返って、落ちたものを拾った。  黄ばんでしまって、製本された背表紙が剥がれかけているけれど、それは青い表紙で『空色』と書かれていた。  卒業文集かなにかなんだろうか。そう思ったけれど、うちの学校は年齢も生い立ちもバラバラが過ぎるのに、そんなものをつくるんだろうか。     
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