第一章 妖精と呼ばれし娘 一、愛を探す少女

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 息を急き切らせながら、ようやく女王は立ち止った。そこは女王のプライベートが約束された後宮であった。緑と花に囲まれた後宮はブリューテブルク城と同じ塀で囲まれた湖の畔にあり、王族が幼少期を過ごす所であった。  この世に一つしかない鍵を使って、女王は中に入った。そして誰も入ってこられぬよう、中から錠をかけた。玄関口から広間を見渡すと、家具にはもれなく灰色のシーツが掛けられていた。そっと触れてみると、小さな白いもみじがシーツの上にあらわれた。シーツを曇らせていたのは埃なのだ。  女王はぱたぱたと後宮のあちこちを冒険した。幼くして即位した彼女にとって、誰もいない環境は久しいものだった。少しの探検を続けてわかったのは、どこもかしこも埃だらけということだ。女王の漆黒の喪服はたちまち濁ってくすみ、床にも女王の小さな足跡が点々と続いた。その後ろには、彼女のそれよりも一周りも二周りも大きな足跡が静かに付いてまわった。  ついに、女王は両親が存命中に使っていた子供部屋へ入った。ロザリンデもかつてここに住まっていた。ドアノブは低い位置に付けてあって開けにくかったし、家具も全て子供用にあつらえられた小さなものだった。曇った窓も低い位置にある。     
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