第一章 妖精と呼ばれし娘 一、愛を探す少女

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 女王は再び、すっくと勢いよく立ちあがった。小さな頭からずり落ちてしまった権力の証を、大きな頭の大臣があわてて受け止める。今度は大きなため息の嵐が巻き起こった。心を寄せられているとも知らぬロザリンデは、真っ赤に充血した瞳で家臣たちをキッと睨みつけた。 「わらわは女王をやめるぞよ!」  城内が幼い女王によってざわめきだした。錯乱状態の女王が力の限り駆けだしたのだ。彼女は、先程落とした王冠―自身を王座に縛り付ける権力の証から遠ざかるように、城の中央の玉座の間から、東の女王の部屋、西の図書館、離れの灯台まで縦横無尽に駆け巡った。彼女を守り、包み込んでいた全てから逃げ出すように。侍女たちは女王のお気に入りを部屋へ取りに走り、兵士たちは走り回る女王を捕まえるのに躍起になった。その、警備の薄くなった扉を、黒い影がするりと抜けたのに気付いた者は誰も居なかった。この国を保護する役目を負っていた魔術師が亡き今、物理的な警備は何の意味もなさなかったし、あらゆる災難に対する処置は全く施されようがなかったのだ。  自身の持つ大きな責任から逃げるように、女王はとにかく一人になろうと走った。 「じいやより強い魔術師なぞおらぬのじゃ! これからどうすれば……国を守れぬ女王なんて、誰も……!」     
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