第一章 妖精と呼ばれし娘 二、五月雨の心は

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 矢が折れているのを見つけるときは、決まって矢じり側が野生の動物に刺さったままで、羽根の側だけが赤い血と共に残っているのが普通だった。それは、獲物が必死に取り除こうと悪あがきをした結果だった。しかし、今回は、へし折られたかのように真っ二つに折れて、その場に散らばっていた。  どこまでも見渡せる、そしてどんな遠くのものも見つけられる、生まれ持っての優れた視力、これが彼の《ギフト》だった。これがために、狩人としての腕前を磨いてこられたのだ。その実力に少なからず自信を持っているアルフレッドは、不愛想な表情を更に険しくした。 「悔しい。絶対、あの真っ白な毛皮をひんむいてやる……!」  彼は何とかして仕留めてやろうと決心し、そうして作戦を考えていると、彼は気付かぬうちに眠ってしまっていた。  浴室の扉を強く連打する音が、うとうとと夢心地になっていた彼を現実に引き戻した。驚いて浴槽の中へずり落ちる彼に、ドアノブをガチャガチャ鳴らすというさらなる追撃があり、アルフレッドは慌てて浴槽から飛び出した。  もちろん、その犯人が彼の乳母だったことは言うまでも無い。  翌日、太陽の兆しが暗闇を白ませる早朝、アルフレッドは軽い朝食を自室で済ませると、てきぱきと身支度を始めた。貴族の大半は着替えを下僕に手伝わせるが、彼はそういったことを好まなかった。  衣装箪笥を開いて部屋着を脱ぐと、姿見に自身が写り込むのが視界に入った。     
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