エピローグ

1/3
前へ
/211ページ
次へ

エピローグ

 雨が降っている。  傘を雨が激しく叩き、伝い、流れ落ちる。  雨足は徐々に早くなり、そのせいか既に人通りはなく、今ここにいるのは私たちだけだった。  気が付けばすっかり暗くなり、月も星も分厚い雨雲に隠れて見えない中、雨に濡れた外灯から落ちる頼りない光だけが、私たちを照らしている。  普段は髪がうねり、服や足元を濡らすので鬱陶しいとさえ感じる雨の音も、今だけは耳に心地よかった。雨の音が、全ての雑音を消し去ってくれ、私の中の音とじっくりと向き合う事ができた。  私は今、どんな顔をしているのだろう。  私は、今目の前で向かい合っている彼の顔を見ながらそう思った。  足元の水溜まりは、雨で波紋を立てて鏡の替わりにはならない。顔は雨で冷え切って筋肉が強張り、どんな表情をしているのか、自分では判断ができなかった。  泣いているのかもしれない。笑っているのかもしれない。  もしかすると、初めて会った時のように、何の感情も浮かべてはいない顔をしているのかもしれない。  少なくとも彼は、初めて会った時のように、何の表情も浮かべてはいなかった。 「それじゃあ、もう行く」 「うん」     
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加