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エピローグ
雨が降っている。
傘を雨が激しく叩き、伝い、流れ落ちる。
雨足は徐々に早くなり、そのせいか既に人通りはなく、今ここにいるのは私たちだけだった。
気が付けばすっかり暗くなり、月も星も分厚い雨雲に隠れて見えない中、雨に濡れた外灯から落ちる頼りない光だけが、私たちを照らしている。
普段は髪がうねり、服や足元を濡らすので鬱陶しいとさえ感じる雨の音も、今だけは耳に心地よかった。雨の音が、全ての雑音を消し去ってくれ、私の中の音とじっくりと向き合う事ができた。
私は今、どんな顔をしているのだろう。
私は、今目の前で向かい合っている彼の顔を見ながらそう思った。
足元の水溜まりは、雨で波紋を立てて鏡の替わりにはならない。顔は雨で冷え切って筋肉が強張り、どんな表情をしているのか、自分では判断ができなかった。
泣いているのかもしれない。笑っているのかもしれない。
もしかすると、初めて会った時のように、何の感情も浮かべてはいない顔をしているのかもしれない。
少なくとも彼は、初めて会った時のように、何の表情も浮かべてはいなかった。
「それじゃあ、もう行く」
「うん」
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