エピローグ

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 最後の別れかもしれないのに、会話には驚くほど色気がなかった。  この数週間の出来事が頭をかすめる。そして、それ以外に言葉がないのだと理解する。  何故ならそれ以外の言葉を交わすほども、私たちは決して親しくないからである。でも、私は彼からとても大事なものをもらった。彼はどうなのかは知らない。彼はどうだったんだろうと知る気にも、全くなることはなかった。  雨足が早くなる。足元をびしゃびしゃと濡らし、ジーンズが湿って身体を重たくする。いったいどれだけ間があったんだろうと思ったけれど、多分それは一瞬のことだったんだろう。  やがて最後に、ふたりはほぼ同時に、一語一句全く同じ言葉を放った。 「ありがとう」  最後に交わした言葉は、本当にたったのこれだけだった。  彼は私の隣を、私は彼の隣を通り抜け、すれ違う。  すれ違う時に傘と傘がぶつかり、雨粒がバラバラと零れ落ちた。傘が私の代わりに、大粒の涙を零して泣いてくれたのかもしれないと、バラバラと落ちる雨粒を見てそう思う。  やがて擦れ合った傘から傘の感触は消え、水を跳ねるような足音は徐々に遠ざかっていった。  それでも彼は振り返らないだろう。私も振り返る気にはなれない。  ただ、私はこの雨の日を忘れることはないだろう。     
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