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1話
雨が降っている。
雨足は早くて細かく、おまけに斜めに向かって降ってくる。傘、何の役にも立っていないじゃない。
嫌だなあ、今日はバイトの終了時刻が遅れたから。一番雨強い時に帰る羽目になってさ。まあこれで少しは残業手当がもらえたと思えば、何てことはないのかもしれないけど、気分の問題だ。
自給と残業時間をかけて、いったい何円割増になったんだろうと、姑息なことを考えつつ、私は右手で傘を、右肩には鞄を、そして空いている左手で、雨でぴょこっぴょこっと跳ねっ返る髪を押さえつけていた。本当に嫌な雨。まあ六月に雨が降るのは自然なことだし、雨降らなかったら異常気象とかって天気予報で騒ぐんだろうけど。
そう取り留めもないことを考えている間に、私の住んでいるアパートが見えてきた。
私は傘を閉じてクルクルと折り畳んで階段を昇ろうとして……。階段の影に人がいる事に気が付いた。
あれ、やばくない? 途端に私は鞄をぎゅっと掴む。
私の住んでいるアパートは、アパートとは言ってもアパートではない。訳がわからないと思うけど、本当の話。
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