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これまでの彼のテニス人生を振り返っても楽しいことより苦労の方が数倍、いや何十倍も多かった。
この決勝に臨む際、前年度チャンピオン、アルベルト・コスナーと共にセンターコートに一歩足を踏み入れた瞬間、彼はこれまでにない強い感情に襲われた。
それはこの決勝戦に臨む緊張感でも、対戦相手に対する恐怖心でもなかった。
言葉では言い尽くせないが、マグマが噴き出すような何か身体の芯からふつふつと湧き起こる期待感、高揚感とも、或いはまたこの十数年来の望みを叶える絶好のチャンスに漸く恵まれたという幸福感だった。
そんな希望に満ちた彼に不安が一つもなかった訳ではないが、憧れのセンターコートに一歩足を踏み入れると決して今は美しいとは思えない荒れ果てて、剥き出しの砂地が見える緑の芝生も彼等ファイナリスト2人を心行くまで歓迎してくれているように見えた。
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