『 ファイナリスト 』

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2019年7月21日、今日はどんよりとした灰色の雲が空一面に垂れ込み、時々その分厚い雲の隙間から青空が申し訳なさそうに覗き、その合間に一筋の陽の光がこの時とばかり一瞬差し込めるといったイギリスでは日常からよくある不順な天候だ。 しかし、そんな空の重たい雰囲気とは裏腹に彼の心は晴天のように青く澄み渡り、身体の奥底、そう心の中心とでもいうべき場所から自然と力が漲り、どんなに苦しい状況でも突破出来そうな心地良い感触を抱いていた。 そして、それは自分に対して無理を強いている訳でもなく、自然と肩の力も一切抜けてリラックスしている、そんな自然体だった。 今こうして彼が立っている場所は、テニスの聖地イギリス、ロンドン郊外、チャーチ・ロードに位置するオールイングランド・クラーケ・アンド・ローンテニスクラブ、そう全てのテニスプレーヤー憧れの場所、全英テニス選手権開催の地"ウインブルドン"の栄えあるセンターコートだった。
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