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二人と別れて僕がいた塾の前を通ると
「寄っていけや」
塾長が声をかけてくれた。
「酔い醒ましに冷や」
また事務室で酒。僕は缶コーヒーを開けて言うた。
「ヨシタカが大学ヤメるかも」
「ああ、聞いた。”権威話“。あれはイッポンギ(正義感が強い)な奴やから今の世は生きにくいなあ」
「うん」
「お前のトコの父ちゃん母ちゃんと似てる」
「そうかなあ」
「昔二人が京大の大学院で歴史勉強してた頃、母ちゃんに手ェ出しかけた教授がおってな」
「“横綱“にかいな!?」
「昔は風に飛びそうなカヨワイ女やった」
「変貌とか通り越して別物やな」
「モテたんでェ、それでも大ちゃん一筋やった。大学の入学式で出逢った時から」
「その教授を大ちゃんがボコボコにして骨折ってやった次の日二人は大学ヤメた。」
「ふ~ん、そんで教員なったんや」
「そうや。」
「後悔してないんかな?」
「した日もあるやろな、してない日もあるやろな」
「禅問答やな」
「そら、そうや。ワシらは人の子やで、神さんの子やない。迷い、悩み、毎日生きてる」
家へ帰ると“風に飛びそうやった“らしい横綱が翌日の授業の下準備をしてた。その隣で父親はスヤスヤ眠ってた。
「大学、ヤメようと思う」
「ふ~ん、ヤメて何すんの?」
作業を止めることなく聞かれて
「電車の運転士」
答えた。
「アンタ、子供の時から好きやったからなあ、電車。ようさん(沢山)買わされたわ。もうこれからは自分で買うなら好きにしぃ」
としか言わんかった。
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