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妊娠三ヶ月。
それが後に小川から告げられた結果だった。
今回は推理でも何でもない。勘のようなものがほとんどだ。それでも伊藤の推測は当たってしまった。
伊藤が渡した妊娠検査薬で陽性を確認すると、いよいよ中村にも報告し病院で検査を受けた。
小川自身その可能性に気付いたのは、突然来なくなった生理からだった。早く確認しなければと思いながらも、なかなかその勇気が持てずにいた。
しかし、小川はその一方で心の底から妊娠を願ってもいた。心に決めた相手との間に授かった大切な命。それ自体は小川にとってただ尊いものだった。
このまま生理が来なければ、小さな命に会える。彼女は純粋にそれを願った。
「それにしても、わかりにくい書き方だよな。神様もなんのこっちゃわからんだろ」
「山本も言ってたけど、あそこうちの高校でも有名で生徒がよく行くんだろ?誰かに見られる可能性を危惧したんだろ」
名前を書く代わりに、もし誰かに見られてもいいように内容をぼやかしたのだろう。それもあって、ほぼ毎日小川はあそこに参拝し具体的な祈りを心で繰り返した。
「しかし意外だよなぁ。あの小川がねぇ」
「そういえば小川も引いたらしいぞ、おみくじ」
そこには【出産】の項目に『さわりなし。安産』とあったらしい。
学生達にはあまり知られていなかったようだが上代神社は安産祈願で有名な神社だった。小川はもちろん知っていて参拝していたようだが。
「でもここからが大変だよなぁ。学生同士で妊娠って」
「来年籍入れて、中村も卒業したら働くらしいしな」
「大丈夫かねぇ」
「大丈夫だろ。中村ならちゃんとやるさ」
それに―――
小学4年の優しい少女を思い出して言う。
「小川みたいな奴が幸せになれないなんておかしいだろ」
「なあ、もしかして伊藤ってさ」
「ん?」
「・・・いや。なんでもないわ!」
「なんだそれ」
「まーちびとーきたーれーりー」と山本が口ずさむのを聞きながら、伊藤は暗くなってきた空を見上げる。これが二人に与えられた試練や苦難の類ではなく、天からのクリスマスプレゼントであればいいと切に願った。
「あ・・・」
視線の先、見上げた空から白い綿のような雪がはらはらと降りてきた。
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