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2)ロンリークリスマス
「伊藤、伊藤」
休み時間の教室。呼びかけられ机に突っ伏していた顔を上げると、
「ニョペーン」
と言いながら山本が何かの紙を目の前に広げてきた。
「聞いたことのない効果音を使うな」
山本はその紙を一度手の中にしまうと、再び広げ直して言った。
「テッテレー♪テレテレテンテントゥクトゥン・・・」
「テッテレーだけでいい!もういいから。要件を言え」
「これこれ。見てくれよ」
先程の紙を机の上に広げて指差した。まあ、正直チラッと見えていたので何かはわかっていたが。
うん、やはり。おみくじだ。
[小吉]
「いや、微妙なとこだな!すげー自信満々に見せてきて小吉かよ!」
「違う違う。そこはどうでもいいの。ここ見て、ここ」
山本が指差したとこには[待ち人]の項目が書かれていた。
「待ち人、来る」
「そう!待ち人来る!はい、やりました!」
両手を高々と上げて喜ぶ山本を見ながら、こいつにとっては毎日が『楽しい』でしかないのだなとつくづく思う。羨ましい気もする反面、かといって山本になりたいとは全く思わないのが不思議なとこだ。
「来たるクリスマスに向けて、俺の運命の人が現れるのだ」
12月も半ばに入りクリスマスまであとわずかとなった今、正直いささか遅すぎやしないかとも思う。
「運命の人、ねぇ」
「なんだよ、伊藤だってクリスマスに彼女と過ごしたいとか思うだろ?」
「いや、別に」
こっちが嘘だろと言いたくなる程の驚愕の表情を浮かべる山本。そんな表情どうやって出来るのか訊きたくなる。とにかく、まあ、腹の立つ顔だ。
「嘘だ!だって世の中はさぁ、カップルどもがさぁ、楽しげにさぁ、キラキラしてさぁ、腹立つだろ!」
「いや、それはそれでいいだろ」
「おい、なんだ。伊藤は聖人なのか。じゃあ、伊藤はいつもクリスマス何してるんだよ?」
去年、一昨年と自分の姿を思い出す。浮かぶのは家で一人本を読んでいる自分。
「誰よりも淋しいじゃねえか!」
「別に淋しくもないんだよ。クリスマスだからってそんなに特別なことしたいとも思わないし」
子供の頃からそこは変わらない。うちはそういう家だった。
「そんなんじゃ」
言いながら、山本はおみくじをひらひらさせる。
「待ち人来ないぞ」
待っている人なんていない。そう思いつつも言葉にはせず、替わりに別の質問を投げかけた。
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