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なんとなく小川を気にして見ていると、やはり元気が無いように思える。体育の授業があればずっと休んでいるようだった。
「体調悪いのかな?」
山本はそう言うが、伊藤は精神的なものではないかと思っていた。
「でも、俺見たんだよね。小川が一人固い表情で薬局に入っていくの」
「薬局くらい行くだろ」
「でも何も買わないで出るんだよ。それも一回じゃなくて」
「山本よ」
「やっぱ体調悪いのかな」
「ストーキングは犯罪だぞ」
山本がストーカーにならないように言って聞かせるのはそれとして、少し気になる情報だった。
謎の絵馬から始まった今回のことだが、伊藤は少しずつ小川のことが心配になっていた。そんな心配も単なる思い過ごしかもしれないし、そもそも余計なお世話なのだろう。彼女のことを心配するのは中村に任せておけばいいのかもしれない。
だけど。
もし、小川が中村にも言えないことで悩み苦しんでいるとしたら、何でもいい、何か少しでも力になれたらと思った。
ふと、あの日のクリスマスを思い出す。
伊藤の両親は共働きで毎日忙しく、伊藤が幼い頃から仕事で家を空けることが多かった。そしてそれはクリスマスだろうが例外ではなく、そのため伊藤には家族でクリスマスを楽しんだ記憶というものがない。
何も思わなくなった今とは違い、さすがに幼い頃はそんな自分の境遇が辛かった。
小学4年のクリスマス、二学期の終業式でもあったその日、伊藤は家に帰らなかった。
他の家ではキラキラしたクリスマスが行われているのかと思うと、いつものように作り置きの料理だけが待つ家に一人帰るのが無性に嫌になったのだ。
寒空の下一人歩いていると、自分だけが色を失い、この彩られた世界から取り残されてしまったのではないかと思えてくる。俯いた伊藤は今にも泣きそうだった。
「伊藤君」
不意に声をかけられ顔を上げる。
「小川」
両親と共にケーキ屋から帰る途中だったという彼女は、きっと自分が憧れる暖かいクリスマスを過ごすのだろうと思われた。
咄嗟に目を伏せる伊藤に彼女は尋ねた。
「一人?お父さんお母さんは?」
「・・・いないよ。今日も仕事だから」
「そうなんだ・・・」と呟いた彼女は、両親の方を振り返り言った。
「伊藤君とも一緒にクリスマスパーティしたい!いいでしょ?」
「え?」
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