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困惑する伊藤をよそに、彼女は半ば強引に我が家に招待した。
「伊藤君。メリークリスマス」
そこには、自分は経験することがないと思っていた、描いた通りのクリスマスがあった。
何かが救われたような気がした。
後にも先にもあの日のようなクリスマスは過ごしていない。それでも伊藤はもうそれを辛く感じることもなかった。
「クリスマスまで残り僅かだよー」
放課後、山本がおみくじをひらひらさせながら言う。
「俺の待ち人はいずこ・・・」
はぁ、と溜息を漏らしたかと思うと、おみくじを見つめたまま聞き覚えのあるメロディを口ずさみだした。
「まーちびとーきたーりーてー」
「『もろびとこぞりて』な」
「お、また謎見っけ。『もろびとこぞりて』って何?」
「たしか皆で一緒にとか、こぞってって意味だな」
「へー」と言いながらも、また「まーちびとーきたーりーてー」と歌う山本。どうやら自作の替え歌が気に入ったらしい。
と、少し派手目な女子グループの会話が聞こえてきた。
「あー、どうか来ませんように」
その覚えのあるフレーズに二人は一瞬ピクっと反応し、自然と耳を傾けていた。
「ちょうどクリスマス頃に来そうで最悪なんですけどー」
なんだ?彼女達も来てほしくないのか?誰に?
伊藤が考えていると、山本がずんずんと彼女達に近付いていき声をかけた。
「ねえねえ、来ないでほしいって何なの?」
コイツすげーな、と伊藤は改めて山本の人間性に感嘆する。
「ちょっとなに盗み聞きしてんのよ山本。っていうか、セクハラなんですけど」
「は?なんでセクハラになんだよ」
そのやり取りに伊藤は察する。
ああ、そういうことか。
「もういいから、山本。すいませんでしたー」
と言いながら、伊藤は山本を引っ張ってくる。
「なんだよー。もしかしたらヒントになるかもしれないじゃんか」
「いやいや、アレは別のことだから」
「なんで言い切れんだよ」
「言い切れんだよ。しかもアレで『来なければ会える』だったら―――」
―――え?
急に止まり難しい顔で考え込む伊藤に、山本は何事かと尋ねる。
「伊藤?」
いや。まさか。
なんの根拠もない推測に胸がざわつく。飛躍しすぎだと内心で笑う一方、何故か確信めいて思えてしまう自分がいた。
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