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本来見えないもの、見てはならないものを暴き立て、時に書き換え、無視し、理にそって健気に生きる人物たちを、必死になって理を創る管理者たちを出し抜き、欺くその行為は最高の愉悦と多幸感をもたらしてくれる。
それらの前では、理による糾弾も、存在の抹消さえも、ただのスパイスにしかならない。
なら、今現在自分を――長谷部 涼という人物に干渉し、心の在りようまで書き換えているその存在は、自分と同じような胸糞悪い最高にトチ狂った笑みを浮かべているに違いない。
それは、薄暗い電子の深海の中で同族を――正真正銘のチーターたちを嗅ぎ分けてきた涼の嗅覚からくる確信だった。
『あぁ……合格だよリョウ。文句無しの合格だ。君の歪み切った在り方は、ボクが作った世界の一キャラクターにしておくには……排除してしまうのは勿体ない。君を選んで大正解だ。ちょっと待ってて? 今君が見ても大丈夫な人物になるから』
白の空間に音が響く。
男とも、女とも、子供とも、老人のものとも取れるその音は声だった。
声から読み取れる感情は、嘲りと感嘆と歓喜と悔しさと悲しみと怒りと蕩けるような陶酔。
おおよそ人が発せられるような声ではない。
聞いただけで脳の神経が焼き切れそうなほどの情報量を持つ声など、人は発することが出来ない。
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