第1章 森の中は静かだった

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第1章 森の中は静かだった

「なんか・・・・・静かだな」 「そうだな、今日はいつもよりも静かだ。」 そう呟いた女性の声は、木々や地面に吸い込まれて遠くには響かず、苔の生えた地面を踏みしめる足音さえも消してしまう、風一つ吹かない森の中には、ただひっそりと木々達が立ったまま沈黙している。 女性は大きな木の幹に触れ、そっと耳を傾けると、まるで滝の近くのような重くてずっしりした音が聞こえる、まるで地面の脈拍を感じているような気分だった。 その幹の下で女性は座ると、ぼんやりと葉が生い茂る枝の隙間から見える青い空を見た。 いや、見えるのは太陽の光だ、空の青は木の葉が覆ってしまいほとんど見えないが、木の葉を通して地面に届く太陽の光は、まるで宝石のように光り輝いている。 ちょうど昨日雨が降ったので、地面の草や苔が生き生きとしている、鮮やかで眩しいくらいの緑色の絨毯には、所々水滴が太陽の光を浴びて光っていた。 草の匂いが充満したこの森のあちこちに、古い靴の足跡がある、だがよく目を凝らさないと見えない、岩に生えている苔が不自然な形で生えていたり、ぬかるんでいる地面に少しだけ足跡の様なくぼみがある。 コレから推察するに、この森にはしばらく人は入っていないようだ、彼女が少し手を伸ばすだけでも食べられる山菜が掴めるのもその証拠だ。 この山々はそんなに大きくもないが、数日前に立ち寄った村の人からの話だと、昔からこの山に入って行方不明になる人は少なくない、先月も散歩するために山に入った子供が行方不明になってしまったらしい。 だが、村の人はあまりその山に入りたがらず、山でその行方不明になった子供を探す人は、その子の両親以外誰もいない、それはただ単に遭難するなどという安易な考えではなかった。 女性はカバンの中から新聞を取り出して読み始めた、その一面には「行方不明の子供、未だ見つからず またしても【角狩り村】の住人の仕業か?!」 と書かれ、行方不明の子供の顔のイラストと、情報提供先の市役所の住所が書かれていた。
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