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「……何、コレ?」  段ボールだらけのベッドルーム。引っ越し後の様子を見たいがため、他意無く覗いて、あたしは呆れた。 「ぅわあああっ、誤解っ! 違うんだってば、栗姉(くりねえ)っ!」  ベッドサイドから拾い上げたのは、黒いレースの下着。勿論、女物。  ヘンな汗を浮かべた(もも)こと桃夜(とうや)が、焦って右手を伸ばしてきた。  それをかわして、ピロリと両手で摘まんで広げてみる。まぁ布の少ないこと。 「挑発的ねぇ」 「だっ、だから、誤解! それ、昨日手伝ってくれた誰かの落とし物だって!」 「落とし物ぉ?」  コイツは。大学生にもなって、まだそんなこと言ってるのか。  それじゃ、何か? 落とし主はノーパンで帰ったっていうのか。もしくは、予備のパンツを持ち歩いていたとでも? 「桃さぁ……昨日、引っ越し手伝ってくれたオトモダチに、あたしのこと話した?」 「あっ。うん、イトコの姉ちゃんが隣に住んでるって、言ったけど……」  やはりな。こりゃ、牽制だ――女の影をアピールしたかった訳だ。  これ見よがしのパンティくらいで、あたしが怯むと思ってんのか。 「ま、いいわ。キッチン使えんの? お昼まだでしょ」  つまらない不発弾をポイとベッドの上に放り出して、リビングに向かう。 「俺、オムライス食べたい」  かろうじて梱包が解かれていたダイニングテーブルから、自分のボディバッグをソファーに移して、タンポポみたいな笑顔で振り返る。 「あんた、まだそんなの好きなの?」  内心の動揺を悟られまいと、わざと素っ気なく言いながら、あたしはシンクで手を洗う。 「俺の舌、栗姉の味で育ってんだから、仕方ないじゃん」  ポワポワした色素の薄い髪を揺らして笑う、色白のベビーフェイス。まつ毛の長い大きな瞳が、真っ直ぐあたしに向けられる。 「はいはい。テーブル拭きなさい」  絞った布巾を渡して、冷蔵庫の中を見る。単身者用の小ぶりの冷蔵庫には、玉子のパックと牛乳、ママレードのビンとバターにマヨネーズ。残りのスペースには、発泡酒がズラリと並ぶ。  続けて覗いた冷凍庫には、アイスのカップとレンチン用の市販のお惣菜が数種類。勿論、生鮮食品の類いは見当たらない。  これでどうやってオムライスを作れというのか。
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