14人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺……ブラックがいい」
「眠れなくなるよ」
言いながら、あたしと同じ白いマグカップにコーヒーを注ぐ。ペアカップではない。会社の忘年会の景品で貰った5個1セットのうちの2個、それだけだ。
「いいよ。どうせ徹夜で荷物片付けなきゃ」
毛布を几帳面に畳んでから、さっきオムライスを食べた向かいの席に戻る。子どもみたいにマグを両手で包むと、砂糖菓子のような笑顔を広げた。
「あんた、大学は?」
「んー、明日は午後から」
「いいわねー、自由人」
皮肉を言うと、桃はマグに口を付けたまま、上目遣いであたしを見た。
「栗姉は仕事?」
「当たり前でしょ」
「じゃ、夕飯食べよ! 俺、迎えに行くから」
終業時間がはっきりしないから、と断わろうとするより早く、「約束!」と強引に小指を絡められてしまった。
あたしは、桃の笑顔に弱い。会う度に、痛感する。
最初のコメントを投稿しよう!