君とおでんが食べたい

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「新人の谷川涼太くんだ。教育係頼むよ、長谷川くん」  そう言われて紹介されたのは、大学出のいかにも出来そうな新人だった。  ちょっと生意気そうな目元に、薄茶色の髪。緊張している様子はなくて、どこか不敵な感じがした。 「初めまして、先輩。よろしくお願いします」 「あぁ、よろしく」  第一印象は苦手なタイプ。その後一ヶ月を一緒に仕事しても、やっぱり苦手は消えなかった。  そんな相手が二ヶ月過ぎるくらいには「先輩かわいい」を繰り返すようになった。  バカにしてと悔しいけれど、この頃にはもう俺の教育なんていらないんじゃないかってくらい仕事ができた。むしろ俺のほうがフォローされる事もあった。  情けなくて、何度も教育係を降りたいと上司に言ったが「今は人が空いてなくて」と言われてしまい、どうしようもないまま自信だけを失っていった。  そんな時に、おもいっきりやらかしたのだ。  三ヶ月が経って歓迎会をやることになり、飲み過ぎた俺はよりにもよって谷川とやってしまった。  先に目を覚まして焦りまくり、「酒のうえでの事だから」ということにしようと必死になっていた。  そんな俺に谷川は「先輩が好きです。これを機会にお付き合いしてください」と言われた。  ドキドキだ。なにせ自分がゲイだってことを親にも言えなかったんだ。  誤魔化そうとして、でもそれも出来ないくらいしどろもどろで、そこからは強引な谷川に丸め込まれて付き合うようになった。  悪くなかった。というよりも、色んな事が変わった。休日の過ごし方、アフターの過ごし方、着る物や、切ない夜や、嬉しい事や。  今日も実家からお酒と大根が送られてきたからおでんを作ると言ったら、食べたいと言われたのだ。
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