君とおでんが食べたい

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君とおでんが食べたい

 単身者用のマンションのキッチンで、美味しそうなおでんが煮えている。煮立たない程度にクツクツと音を立てる具材は味の染みた色をしている。  俺はその一つを摘まんで、口に放り込んだ。 「うん、美味しい」  満足に笑い一旦火を止める。それをコタツの上に置いてあるIHコンロに運んだ。  一人で食べるには多いおでん、キッチンには熱燗を作る為の湯も沸いている。徳利は一応四つくらい準備したが、コタツの上にお猪口は二つ。慌てて用意したから百均になった。  普段は一人分の料理しか並ばないコタツの上にあるおもてなしに、ちょっとドキドキしている。部屋を見回して、見られてはいけない物がないかをチェックして、落ち着かない時間を過ごしている。この部屋に誰かを招くのは、初めての事だ。  会社ではいい人。それなりに付き合いもいい。けれど部屋に誰かを招いたり、休日を誰かと過ごすようなタイプではない。  「プライベートどうなってるんだろう?」の典型みたいな俺に転機が訪れたのは、今年の六月の事だった。
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