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なんせ、僕はマゾヒストな分――逆は大嫌いなのだ。
少しでも相手が痛そうな素振りを見せるともう駄目だった。なにもする気がなくなってしまう。どうせなら、セックスってやつは男の方が痛ければよかったのに――なんで逆なんだと思わずにはいられない。痛がる相手をみると途端に嫉妬してしまうのだ。なんでお前なんだ、僕がそっちの方がいいのに――なんて。思ってしまう僕は、やっぱり少しばかりヘンなのだろうか?
お陰さまで、僕は結局童貞のまま。
結局彼女の一人もろくにできないまま、今に至る。
わかっているのだ、理想が高すぎるということくらいは。外見の好みは一切問わない。ただ、究極のサディストが好ましいと言うだけのこと。僕を殺す寸前で痛め付けても、罪悪感一つ抱かない人がどこかに落ちてはいないものか。――まあ、そうそう出会えるものではないのはわかっていた。基本的にそういう性癖があったところで、他人に隠すのが当たり前というではないか。実際、僕も自分の性癖を隠すのに必死だった。夏場は袖や短パンでも隠れるような脇や太ももしか切りつけないようにしたし、なるべく早く傷が治るような綺麗で浅い切り方を心がけていたくらいだ。本当は、肉も骨も見えてしまうくらい切りつけてみたいと思っているのに。
やがて僕は、とても素晴らしいモノの存在を知る。
そう、地獄、というものの存在を。
いやはや、別に地獄そのものを知らなかったわけじゃない。ただ、そこに落ちた人間がどうなるのかを知らなかっただけだ。八大地獄も八寒地獄もなんて素晴らしいのだろう。バラバラに切り刻まれては復活したり、剣山をひたすら上らされて血だらけになったり、あまりの寒さに体が折れ裂けて血みどろになったりするというではないか。
もちろん、こんなものは生きている人間が想像した、宗教上の地獄に過ぎない。それでも僕は、地獄への欲求を日増しに抑えられなくなっていったのだ。
地獄に落ちたい。そして、なかでもとびきり痛くて苦しい地獄を永遠に味わってみたい――!
では、地獄に堕ちるにはどうしたらいいのか?
答えはすぐに出た。地獄に堕ちるような、罪となることをたくさんすればいい。
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