1つ目 あの子の靴

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私は走り出した。彼女の話をそれ以上聞きたくない。靴下のまま、冷えた山の土を駆けていく。怖い。このままじゃーーー。 「このままじゃ、この子みたいになっちゃうね。」 目の前から聞こえて驚いた。そのせいで足が絡まり転けてしまう。 「・・・大丈夫、あなたの靴も見つけてあげる。」 「やめて。私はそんなんじゃない。いじめられてるとか、そんなんじゃない!」 「靴、ないんでしょ?」 言い返せない。靴がないのは事実だ。誰が隠したのかはなんとなくわかっている。 「・・・この子ね、お父さんが誰かわからないの。それで、お母さんが周りの人たちに迫害されて、この子も子供たちからいじめられた。草履はお母さんがやっと手にいれた藁で編んでくれた物だったの。それなのに、意地悪な子供たちが山の中に隠してしまった。この子はお母さんを悲しませないように草履を見つけるまでは帰らないって決めていたの。それで、山の中で死んじゃった。死んだ後もずっと、探し続けてるの。でもね・・・。」 彼女と一緒にいるモノが手を顔に当てている。泣いている仕草のようだ。私は彼女の顔を見た。夕焼けが反射してよく見えない。 「草履は山の中にはないの。だって、意地悪な子が持って帰っちゃったんだから。山に隠したって嘘ついて。酷いよね?」 「・・・酷い。」 彼女の目が緑色に光る。 「あなたも、多分おんなじ。」 そう言うと彼女はモノへ何かを差し出した。草履のようだ。モノはそれを受けとると嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。 「良かったね、見つかって。」 モノの体がぼやけ始める。モヤモヤとうねり、最後には消えてしまった。彼女は満足そうにニコリと笑う。私を見ると、手を差し出してきた。 「気を付けてね。出口までは送ってあげる。」
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