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溜息をつくだけで、注意したり怒ったりはしない。今は僕に大人しくして貰う事が重要なのだ。引越しを滞りなく終わらせて、しっかりお化粧してご近所に引越し挨拶に回る…きっとそれで頭がいっぱいなんだろう。こういう時大人は大変だと思うし、子供で良かったと思う。
お母さんが部屋へと入ってくれば、良い匂いが漂う。その匂いの元を視線で追えば、お母さんの手には平べったい箱とコーラのペットボトル。大好きなピザのパッケージのついた箱を見れば、急に空腹感が湧き上がってきた。お母さんにかけより、ピザの箱とコーラを受け取る。
「床に落とさないように食べてね。荷物の片付けがある程度終わったら、ご近所さんに挨拶に行くから食べ終わったら言ってね。」
想像通りのお母さんの言葉に僕はこくこくっと何度も頷く。僕はもうピザを食べる事しか頭になかった。お母さんが部屋から出て行くと、部屋の中央に座り込み大好きなピザの箱を開いた。大好きなピザを一枚取れば伸びるチーズを上手に切り離し、一口齧る。
まだ熱々のピザを口の中でほくほくっと冷まして飲み込む。ふと白い手を見やり勝ち誇った顔を浮かべる。あの手は、どんなに美味しい物でも食べれないのだ。食べ物に対して興味があるかも分からないし、そもそも手だけで僕の行動がどこまで理解出来ているのかも分からない。でも、出来るだけ美味しそうに見せびらかすように食べる。
先程、驚かされた僕のささやかな復讐だった。
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