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白い手~幼少期~
小学生5年生の頃、僕はお父さんの仕事の都合で引っ越す事になった。
本当は仲が良かった友達と離れたくなかったんだけど、我儘は言えなかった。お父さんもお母さんもとても忙しくて、僕の気持ちまでは考えてくれなかった。
ずっとそうだったから…。
引越し先は綺麗なマンションで、僕の部屋も広いってお母さんから聞いて暗くなっていた気分は少し明るくなった。
引越し業者が荷物を運び込む前に、お母さんからマンションの鍵を引ったくって車から飛び降り、マンションの階段を駆け上がる。後ろからお母さんの声が聞こえた。
「祐樹、四階の402室だからね!!」
二階に上がって外の見える踊り場で身を僅かに乗り出してお母さんに手を振る。そしてまた、階段を駆け上がる。誰より早く新しい家に入りたかった。
そんなに気温は高くないが、四階まで全力で駆け上がり息が上がる。膝に手をついて息を整えるも、待ちきれず再度走り出した。
『402』
鉄の扉の上の数字が目に入れば、足を止める。勢い余って転びそうになるが、何とかその場に踏みとどまった。
お母さんから奪い取った鍵を扉の鍵穴へと差し込んでガチャガチャ回した。小さな音を立てて鍵が開く。一度、後ろを振り返ってお母さんもお父さんもまだ来て居ないのを確認し、大きく扉を開くとマンションの通路を両足で蹴って、ぴょんっと室内へと着地する。
「いっちばん乗り!!」
誰と競走していた訳でもないが、得意気に玄関で足を踏み鳴らす。
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